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REGENERATIVE CIRCLE

GOLDWIN AND SPIBER, BREWED PROTEIN™ COLLECTION

「世界のベストレストラン50」に選出されるほか、ミシュランスターも獲得するなど、レストラン業界で知らない人はいないシェフのクリスチャン F. プリシ。彼の特筆すべきところは、“味”だけではなく、お皿に料理が盛られるまでのストーリーにある。ロジカルでエシカル。「農場から食卓へ」の道を最短距離かつシンプルに、それを突き詰めた結果、農場を経営するほどまでに至った。このようにしてクリスチャンの料理はハイレベルなプロセスを経て作られていく。しかしできあがるものは、例えばパンやピザのようなものすごくカジュアルなメニュー。これはクリスチャンからのメッセージである。特別なもの、高価なものとしてではなく、日常的に口にするものから意識を変えて欲しいと。そして食をもっと楽しんで欲しいと。食と気候との関係性や、生態系という循環の系にいる私たちと食べ物の関係性を料理というメディアを通じて発信するクリスチャン。自宅の門をあけるとニワトリが「コケコッコー!」と出迎えてくれた。

コペンハーゲンの北西にあるクリスチャンの自宅。光が当たる南東と南西の壁面だけレンガ白く塗られているのは北欧の住宅によく見られる特徴

自宅の庭にビニールハウスがあったり、畑があったりと、色々な場所で野菜や果物を育てていますね。

もともと生息していたものだったり、野性のものも混ざっているんですけどね。僕たちがこの家に引っ越してきたのは今年。僕がこの庭とグラスハウスに恋しちゃってね。ちなみに黄色の花が咲いているのがルッコラですよ。よく口にすると思うけど、花はあんまり見たことないんじゃないかな? その隣でのびのびと育っているのはミント。 さらにその奥にあるのがベリーの木。今実がなってるのはブラックカラントとラズベリーだね。あ、あとルバーブも育ててます。

自宅の庭に建つグラスハウス。冬は氷点下を下回ることが日常的な北欧でもグラウハウスがあれば野菜が育つ。撮影時はたくさんのトマトが実っていた。

ニワトリもいて、びっくりしました。

今は4羽いて、毎朝新鮮な卵をいただいているんです。それに、例えばパスタが余ってしまった場合とかは、このニワトリたちにあげているんです。すると翌朝には立派な卵になっている。

庭の一角で買われている4羽のニワトリと小さな畑。

循環(サーキュレーション)ですね。

理にかなっていますよね。自宅ならこうした取り組みができるんですが、これがレストランとなるとものすごく難しい。余った食べ物を動物に与えることができないから。リスクヘッジ。パンですらダメなんです……。フードロス、フードロスと世間では言われていますが、この業界にはいろいろと規制がありすぎて、なかなか前に進んでいかない。課題はまだまだたくさんあります。

ニワトリが一日一個産む卵。そんな採れたての新鮮な卵が入っているバスケット。

クリスチャンさんは、2014年、2015年の2年連続でThe Sustainable Restaurant Award を受賞したり、またキッチンにたつだけでなく、さまざま食と気候に関する学会に参加したりカンファレンスでスピーチをしたりしています。

食べものは気候に大きなインパクトを与えるものですからね。だけども答えは、ものすごく簡単にいうと「最小限の労力で最大限のタンパク質をどうすれば摂取できるか?」に尽きます。その答えの一つが、食べ物自体を循環させることだと僕は思っています。この家でやっていることと同じ。僕たちが食べているものは、動物たちからすれば栄養の塊のようなものです。だけども“万が一何かがあったら”のリスクを恐れて、今は余りものは、ゴミとして燃やしているのが現状です。大きなチャンスを逃していると思いませんか? だから世界各国の研究者がどうにか循環できる仕組みを作れないかと奮闘しています。例えば、余ってしまった食べ物をハエに与える研究をしたチームがいました。栄養たっぷりのご飯を食べたハエたちが産む幼虫にもたっぷりのプロテインが含まれているという。それをニワトリに与えることで、良質な卵やお肉をいただく。でもこの手法すらも認められませんでした。結局のところ、人の健康を懸念しているとかではなく、ビジネスが絡んでいるのが原因だったりもします。今あるビジネスのシステムを崩したくないという人たちがレストラン業界がまだ気候問題に真剣に取り組めていない理由なのかもしれません。

そのようなことをずっと考えているのですか?

本格的に実践しはじめたのは、2015年から16年ごろだから比較的最近のことと言えば最近なのかもしれませんけど。実際「Farm of Ideas」というプロジェクト名で、自分たちの農場を作ったこともありました。そこでは野菜を育て、ニワトリ、牛や豚も育てていました。農場とレストランとの間で循環できるシステムを作ってみたくて。でもやればやるほど、レストラン業界や食産業にあるビジネスシステムの複雑さを知る。環境にとっていい選択をトライするも、さまざまな障壁がどんどんやってくる。システムが変わらないと何も変わらないことを理解するいいきっかけになりましたね。

家のような小さなスケール感でやることが大切なのかもしれませんね。

そうかもしれません。いきなり大きなことは変えられないから、みんなそれぞれが、家という単位の中で“再生”や“循環”のことを意識することが大切なんだと思います。

生後4ヶ月のブルドックマリオと近所を散歩するクリスチャン。

食について考えるきっかけはなんだったのでしょう?

小さい頃住んでいた家にも大きな庭があって、そこで家庭菜園じゃないけど、母がいろいろな野菜を育てていました。そういう意味でも、幼いころから畑仕事もしていましたし、生産することの難しさも学びました。それに、目の前で育ったものを食べることってなんて面白いんだという発見もありました。だからこそ自分でレストランを開業するとなった時も、オーガニック認証の取れている食材を取り扱い、ファームトゥテーブル(農場から食卓へ)という考えをできるだけ最短ルートで実現したいと思っていました。

「マリオがうちにきてから生活が変わったよ」と話すクリスチャン

現在でも食と気候に対する興味は全然尽きていない。

常に考えていますよ。むしろみんなの意識が高くなっている今こそが大事な時期です。ただ、現在有力な解決策とされているひとつの考え方が、動物性のものをできるだけなくして、植物由来のものにシフトしていく考え方です。でも個人的には反対。なぜなら人が手を加えれば加えるほど、何を食べているのかが全くわからないことになってしまうから。これが進み過ぎると、人間は本当に生態系からはみ出た生物になってしまいかねません。無理に手を加えることをしなくても、私たちが生態系という循環の一部にいることを意識することで、もっと自然な形で無駄を減らし、カーボンフットプリントを削減できると思うんです。

友人からもらったトラウトの下処理。余った皮や身はマリオの食事に。

クリスチャンさんがオーガニックにこだわるのはなぜでしょう?

レストランとして、シェフとして、そして消費者として、有機農業を守ることが大切だと考えているからです。特に私たちのようなプロは有機農業の価値や、さらにそこで育つ食物の品質の違いを理解しています。だからこそレストランというプラットフォームを使って伝える必要があります。

自宅からクリスチャンが経営するレストラン「ミラベル」までの道中。

それはシェフとしての責任といえますかね?

もちろん何を使命とするかはシェフによって異なるでしょうけどね。現在は、外食が手軽になり、デリバリーサービスも充実したことで、家族が一つのテーブルを囲うことも、むしろ家でご飯を食べることすらもだんだんと少なくなってきています。これはつまり料理や文化をめぐる世代間の交流がなくなってしまっているっていうこと。だから私たちの役割は、“昔のおばあちゃん”のようなことに近いのかもしれません。食べ物や料理の文化的側面を継承する。それはシェフであることでいろいろな人に料理を振る舞うことができる。つまり多くの人たちに伝えられるアドバンテージがあるとも考えています。

キッチンはものすごくシンプル。リノベーションをすることなく、このままの雰囲気で使いたいと話すクリスチャン。

今作っているのは今日のディナーですよね。自宅で作る料理と、レストランで作る料理の違いは何だと思いますか?

レストランの場合は、具体的に、自発的に、自分が知りたいこと、何をすべきか、誰が何を必要としているかを計画的に考えて料理しないといけません。だけども自宅で作る料理はものすごくシンプル。この魚は昨日友人からもらったもので、昨日のうちに頭を落とし、内臓を抜いて下処理を済ませておきました。今からこの魚を開いて、骨を抜いていきます。だけど、まだ何を作るかは決めていません… こうして作業をしながら、庭にトマトが実っていたなとか、昨日買ったジャガイモがまだ余っていたなとかっていうのを思い出しつつ、じゃあオーブンで焼こう!となる。あ、あとキャベツもあるから、白ワインで炒めようかな。

夕食に食べるご飯(魚)の準備中。さすがシェフ、手際がものすごくいいし、丁寧。
子供がグラスハウスから採ってきたのか、まだまだ青いプリプリのトマト。

この余った魚の部分はニワトリに?

昔からニワトリに魚を与えてはいけないって言われていて。多分お肉も卵も魚臭くなっちゃうんでしょうね。ニワトリも食べるものによって肉や卵の味も当然変わってきます。だからこれはうちの愛犬・マリオが食べる予定です!

クリスチャンが着用しているのは、ザ・ノース・フェイス パープルレーベルがBrewed Protein™繊維を 使用して制作したシエラパーカ。身幅にゆとりがあり、ヒップが隠れる丈感のオーバーサイズシルエットが特徴。

一歳半になる子供がいると話していましたが、食育に関してはどのように考えていますか?

こだわることは当然できるけど、でもとにかく食べることを楽しんでもらうのを第一に考えています。だからとにかくいろいろな食べ物に触れあうというか、口にさせるようには心がけている。大人の味覚に比べると子供の味覚はものすごく繊細だし、「これ美味しいから食べなさい!」みたいなものって実はあんまりコミュニケーションとして成立していなかったりします。だからこそ、食べ物は体にいいものだよとか、楽しいことを伝える方が大事だと僕は思っています。

それは年齢関係なく、私たち大人にも感じて欲しいことですよね?

食べ物は多くの歴史や文化を伝えることができるものです。だからこそ大げさにとわわれがちなのが現状。だから僕たちはカジュアルさというのをものすごく大切にしています。もちろん料理を提供する側は常に真剣にハイレベルな料理を追求しなくてはいけません。だけど食べる方は、その料理を気軽に楽しむことがベストです。この2つがうまいバランスで成り立っているレストランこそ僕が考える素晴らしいレストランの特徴です。

自身が経営する「ミラベル」にて食材のチェックをするクリスチャン。

質問は以上です。ありがとうございました!

OK!?ジャケット脱いでも大丈夫ですか? まだこれを着るのは暑いね。冬であればちょうどよさそうですけど。それに色もナチュラルでいい。コペンハーゲンでネオンカラーみたいな派手な色やデザインのものを着ると浮いちゃいますからね。

CHRISTIAN F. PUGLISI クリスチャン F. プリシ

シチリア人の父とノルウェー人の母を持つ。7歳の頃にデンマークへ移住。17歳から飲食業界に入る。その後フランスの老舗のレストラン「タイユバン」やスペインの「 エル・ブジ」、さらにデンマークの「 ノマ」では副料理長を務めた。独立後にレストラン「レレ」とナチュラルワインバー「マンフレッズ」をオープン。レレは2014年、2015年の2年連続でThe Sustainable Restaurant Award の受賞するなど、クリスチャンの名を世界に広げる。しかしパンデミック期間に閉店。現在は、「ミラベル」と「ビースト」を経営。また活動範囲はキッチンだけに限らず、食と気候に関する学会に参加したりやカンファレンスでスピーチをする。

https://www.puglisi.dk/@chrifrapug
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