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REGENERATIVE CIRCLE

GOLDWIN AND SPIBER, BREWED PROTEIN™ COLLECTION

ヨハン・アラホフとヘンリック・フリック、お互いのファミリーネームを冠した建築スタジオ、アラホフフリックはスウェーデンの首都・ストックホルムを活動の拠点にする。2019年、アラホフフリックが手がけた建築物は、スウェーデンのベスト建築に選ばれると同時に、最も残念な建築物に同時にノミネートされることがあった。それほどまでに彼らの建築はプログレッシブであり、それと同時にこれでいいのか?と思うほどシンプルなものだ。潔いほどシンプルに作る理由は、彼らの大きな想いにある。建築は人間の行動に変化をもたらすものである、という想い。わざわざ新しく何かを作るのでなく、すでに存在するものを再生したり、循環させることで十分である、という想い。そして建築物は簡単に作れて、簡単にメンテナンスできるものがいい、という想い。

15歳の頃からお互いを知るヨハン・アラホフとヘンリック・フリック。音楽、アートの趣味が合うだけでなく、卓球仲間でもあった。

アラホフフリックを知ったきっかけは、ストックホルムの崖に建つ簡素な家でした。

ヨハン        Viggsöに建てた家のことですかね。私たちが一緒にやりはじめたばかりのころの住宅建築ですね。そのプロセスも面白くて、まずはじめたことというか、プロジェクトのほとんどの時間を、どこに家を建てるのかを調査に割きました。

ヘンリック        小さな島の崖に建つ家。あの島の豊かな自然に手をつけたくなかったんです。それは例えば崖を削るとか、森林を伐採するようなこと。あと土地自体に負担をかけることもしたくなかった。もし家を解体することになったとしても、できるだけ元々あった状態のままで。そんなことを考えながら調べていると2年かかってしまったんです。

ヨハン        建築としては、基本的には岩の上に柱を置くだけの、ものすごく軽量な構造で作りました。柱も梁も重すぎない素材を選び、サイズを調整し、すべての材料を大きなボート一隻に載せて、一回で運べるように計算しました。また岸からあまり離れてしまうと、そこからまた大きなトラックを何台も使ってみたいなことになってしまうのも……だったので、できるだけ海岸沿い。アラホフフリックとしての活動まもないころの仕事でしたが、私たちにとっては大切な仕事です。

2013年にアラホフフリックが小さな島に建てた住宅。
ディスカッションはもっとも大切なプロセスだと話すアラホフフリック。議論は絶えない。

構造をどう最適化するか、物流をどう最適化するかというアラホフフリックらしいアプローチですね。

ヘンリック        この住宅を作ったのは2013年。“サスティナブル”という言葉がいろんな場所で使われはじめる前の話のことです。とは言ったもののそれ以前、それ以後というのは、あまり私たちにとって関係なく、構造や物流を含めた建築物の考え方はものすごく自然に生まれたものでした。

ヨハン        でも別にこれは私たちが発見した方法でもなんでもない。環境をケアするというのは、きっと人間として生まれ持つ考え方なんだと思います。よく考えてみると、スウェーデンで生まれ育ったことも影響しているのでしょう。なぜなら小さいころ家族で祖父母が住んでいるスウェーデンの南部によく行っていたことがあるんです。南スウェーデンという場所は自然豊かで、というかほとんどが森。そんな場所に祖父母は住んでいました。彼らはモダニストとは真逆で、太陽の光ときれいな空気だけで十分と、野外生活を楽しむ人たちでした。ベジタリアンだったことも含めるとかなりラディカルな考え方を持っていた祖父母ですね。彼らはそんな場所に、わずかなお金で土地を購入し、最低限の材料で家を作った。小さな小屋でしたが、不釣り合いなほど屋根が大きい建物でした。

ヘンリック        それはできるだけ外にいたいから? シンプルな動機だけど、ものすごく本質的。

ヨハン        つまりスウェーデンの土地柄や文化が私たちの制作に影響を与えているのでしょう。これも文化や国民性に通ずるかは分かりませんが、僕たちはあまり目新しい、目立つための挑戦には興味があまりなくて。

ヘンリック        いつも小さな歩幅で前進している感じです。

アラホフフリックのスタジオがあるのはスウェーデンのストックホルム。生ごみと下水処理過程で発生する下水汚泥を原料としてバイオガスを精製し、燃料として利用するなど、エコシティとしても有名。
スタジオの一角。自然光がたっぷり入る窓があるためか照明が不要なほど明るい。

建物を作る過程の中で描かれる子供の落書きのようなスケッチも印象的です。

ヨハン        スケッチは考える上で大切なプロセスとなっています。当然建築模型を作ることもありますけどあまり頻繁に作っていない。あるとすればクライアントとの会話を深めるきっかけのために作ることぐらいでしょう。私たちの考え方はスケッチのように極めて二次元的。バランス、構造挙動、荷重、組み立てなどの計算があってからデザイン。あしらいは最後の最後です。こうして無駄を省いたスケッチを書くことは、アイデアの芯となる部分が制作過程においてブれないように、複雑にしてしまわないようにするためです。なので制作途中で見返したりすることも多々あります。

まるで子供の落書きのようなスケッチ。しかしこれがアイディアの核となっている。

アラホフフリックでは「シンプル」というものを一体どのように定義しているのでしょうか?

ヨハン        私たちは決して「シンプルなものを作りたい」と思っているわけではありません。そのことから考えはじめてしまうと、ものすごく難しい道のりになってしまう。そうではなく、簡単に組み立てられるもの、または簡単にメンテナンスできるもの、簡単に解体できるものを作ろうという考え方が出発地点にあります。シンプルはつまりデザインではなく考え方です。

小さな建築模型。模型自体を作ることが珍しいらしい。

とある雑誌のインタビューであなたたちが「理想の建築は、理解しやすさと複雑さが同居していること。それはつまり心地よさの中に、住み続けることや使い続けることで毎日発見があるような建築です」と話していたのが印象的です。

ヨハン        そうした些細なことに気づきを与えるためには、やはりシンプルであることは大切なことです。ここの梁はどうなっているんだろう?とか、この窓から入るこの時間の光がいいとか。自然の面白いところは1日、一瞬として同じ状態がないこと、毎日違うことにあると思います。空間も同じです。ルールを作りすぎてしまえばしまうほど“安定”した一定の状態になってしまいます。それではきっとすぐに飽きてしまいますよね。

ヘンリック        シンプルとはそれほど自由であり、そこを使う人や住む人の行動すらも広げる可能性があります。

ヨハン・アラホフが着用するのはBrewed Protein™繊維を使用したザ・ノース・フェイスのオービットデナリジャケット。
ヘンリック・フリックはBrewed Protein™繊維を使用したオービットマウンテンジャケットを着用。

今回のプロジェクトではRegenerative (再生)というキーワードを立てています。タイムリーなことに現在、アラホフフリックはスウェーデン建築デザインセンターのリノベーションを手がけていると。一体どのようなことを考えているのか教えてもらえますか?

ヨハン        まだまだ途中ですが、リノベーションプロセスのかなり早い段階で実行したことは、この空間が実際に何で建てられているかを徹底的に調査することでした。すると、高品質かつ膨大な鉄の資材を見つけたり、上を歩くことができるほど分厚いガラス板も見つけました。

ヘンリック        そして私たちはこれらすべての構造物をリスト化し、カタログのようなものを作成したのです。

ヨハン        これだけの材料があれば、例えば鉄骨にボルトの穴を開けて組み立てることでシェルフのようなものができるし、大きなテーブルも作れる、それに小屋のようなスケールの大きいものを作ることもできる……と頭の中で資材の使い方を色々とシュミレーションしてみたのです。この何度も使い直すことができる柔軟性。これはつまり毎年、毎月、毎週、トランスフォーム(変身)する空間になるんです。

ヘンリック        このプロジェクトでも私たちはデザインしたわけではなく、空間の使い方を提案したのです。リノベーションではありますが、新しく作ったものは全体の2-3%ぐらいです。

スウェーデン建築デザインセンターのリノベーションを手がける際に作成した資料。下が建物を成す構造物をリストアップしたものと、それを組み合わせることで何が作れるかを示したスケッチ。
アラホフフリックが現在リノベーションを依頼されているスウェーデン建築デザインセンター。
現場を訪れるヨハンとヘンリック。

リユースやリサイクルの先の考え方ですね。

ヨハン        確かに、リユースやリサイクルすることは、新しく作るよりはベターな選択肢でしょう。一方で少し危険な面もあります。特に最近はリユース素材自体がある種トレンド化しているため、多くの建築家事務所もリユース素材を使う傾向にある。でも複雑な問題でもあります。なぜなら 特に建築の場合は、大量の物資を運ぶ必要があるからです。つまり、再利用資材でも、運ぶことにものすごいエネルギーをかけてしまえば話は変わってきます。必ずしも再利用資材を使うという選択が正しいというほど簡単ではないんですね。だから遠くを見過ぎずに一度足元からちゃんと見ることも大切なのかもしれません。デザインセンターの例があるように、 近い場所に新たな可能性があるかもしれません。だから建築を含め、今後のものづくり全体に関して言えることが、もっとローカルに、そして賢く作る必要があるということ。そしてシュミレーションして、本当に最善の策なのかをじっくり調査する必要もあります。

デザインセンターのエントランスにて。ヨハン(左)はオービットバルトロライトジャケットを、ヘンリック(右)はオービットヌプシジャケットを着用。

先ほどのスウェーデン建築デザインセンターの話も含め、空間から人の行動の可能性を広げる話など、あなたたちに一貫しているのは、これはオフィスのボードに貼っていましたが「open-ending」。つまり“終わり”が存在しない。

ヨハン        ステートメントのように大切にしている言葉のひとつです。特に建築物というものは、美術館のように利用者がいたり、または住宅であれば人が住まないと意味がないものです。だからどこがゴールなのかは定義しづらいし、むしろわからない方が面白い。つまり僕たちが建築家として行っているのは、営む過程のほんの一部をサポートしているだけにすぎないんです。

ヘンリック        だから今リノベーションしているデザインセンターも、昔は研究者や学者、建築家というような、あるジャンルの人しか来館していませんでした。しかし、リノベーション後のデザインセンターはその逆を目指しています。エクスクルーシブな空間ではなく、あらゆる職業、世代、国籍の人に対してもっとオープンにフラットな空間にしてあげることも大切だと考えて、このような自由に使える仕様にしたのです。

オフィスの壁には、様々な資料から引っ張ってきたアーカイブ写真と、キーワードのような言葉が並ぶ。

アラホフフリックは、ソルーション(解決策)を見つけることだけでなく、こうあって欲しいというアンビション(願い)もこめられている。むしろアンビションの割合の方が高いような気がします。

ヨハン        願いをかなえるための解決策は当然必要ですが、確かに“想い”の部分が大きいかもしれませんね。ソルーション(解決策)というのは、あくまで実現する手段です。一方で想いというものは、使用者に対して何を届けたいのか、つまり「こうあって欲しい」と。しかしそれは簡単に見えるものではありません。時間がかかる時も当然ある。しかし、その想いがあることは、すごく重要だと思っています。これは建築物だけに限らず、このジャケットも同じです。見えるものと見えないものがあります。特にシンプルなものであればあるほど、見えないものの方が多い。でも多くの場合、見えないところに作り手の想いがこめられている。こんな時代だからこそ目に見えないものってすごく大事だと思うんです。

ARRHOV FRICK アラホフフリック

2010年に設立したアラホフフリック。このスタジオが手がける建築物は、機能性や構築、運搬などに焦点を当てたシンプルなものが多い。そのシンプルさから生まれる柔軟性が、ニーズに合わせ変化する余白部分となり、建物自体の耐久性や寿命を高めている。こうしたラディカルな考え方から2019年にThe EU Prize for Contemporary Architectureを受賞する。

http://www.arrhovfrick.se/@arrhovfrick
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